北極点からわずか約1000キロ、極地観測の拠点でもあるスヴァールバル諸島。
ノルウェー領に国際法上は属してはいるものの、入域する際にはノルウェーを出国した扱いになり、入域時にはパスポート不要。
さらにスヴァールバル条約により、日本を含む加盟国の国民が自由に移住して経済活動を営める場所として知られる地球上を見てもかなり珍しい地域です。
そんなまさに極地のスヴァールバル諸島の中で唯一の有人島、スピッツベルゲン島のロングイェールビーンを訪れた際に、人生で最大かつこれ以上ないオーロラ大爆発に遭遇しました。
今回はそんなロングイェールビーンで撮影したオーロラ写真をメインに、自然の神秘を紹介します。
1. スピッツベルゲン島入域

スヴァールバル諸島で唯一民間機の定期運航がある空港がスピッツベルゲン島にあるロングイェールビーン空港。
空港とは言っても駐機場も1−2機分しかない最低限の空港です。

雪煙を吹き上げて離着陸する姿はまさに圧巻。機内にいると外の景色が真っ白になるので、若干恐怖を感じるほどです。
ロングイェールビーン出発前には出国スタンプが押される一方、スピッツベルゲン島側では入域審査等は一切ないため、パスポートにはどこにも存在しない空白の期間が存在することになります。
まさに極地ということを入域早々に感じさせてくれる場所です。

空港目の前にはシロクマ注意の看板とともに各主要都市までの距離が書かれています。
背景に写っている大自然を見るだけでもいかに厳しい環境なのかがわかります。
もともとは炭鉱町として発展したものの、現在はほとんどの炭鉱は閉鎖、そのため住人の多くは観光業や漁業で生計を立てているんだとか。

現在ロングイェールビーンに住んでいる人々の数は約2000人。人口1000人以上を有する街としては世界最北に位置している一方、毎年住民の1/4が入れ替わるといいます。
私が訪れたのは3月初旬。極夜の時期は既に終わっていたため日照時間はある程度ありましたが、平均気温は-15℃程度。夜間は−25℃近くになるため、確かに定住するには相当厳しい環境です。
医療設備も限られているため、住人はほとんどが20−40代。また圧倒的に男性が上回っています。
2. 奇跡の朝焼け

私が訪れた3月初旬は日の出時刻が朝8時半頃、日の入りは15時半過ぎという状況。
北緯78度という立地なため、緯度が低い位置にすむ私たちにとっては太陽も不思議な動きをします。

そんなこともあってか、朝焼けの空の色が本当に幻想的。人生で見たこともないような、赤紫色で空一面が包まれました。

そして、太陽の動きが非常に水平に近いため、日の出時間の1-2時間前から空が赤くなり始める一方なかなか太陽は上りません。
日の出時刻を過ぎてもなかなか肉眼で太陽を見られるようにまでは時間がかかります。
3. 大自然と人間の融合

ロングイェールビーンにあるものはなんでも最北端。最北端のスーパー、郵便局、ホテルなど色々と名前がつけられています。
そんなまさに極地ともいうべき場所であっても、人々は大自然と共生しながら生活を営んでいます

小さな町、そのすぐには自然の厳しさを感じさせる険しい不毛の山々。
色とりどりの建物が冬季に太陽の登らない極夜となる場所だということを思い出させます。

街とはいってもそこは極地にある小さな集落。そのため街中であっても固有種であるスピッツベルゲン・トナカイが我が物顔で歩いています。
もともと天敵がいなかったことから、私たちが想像するトナカイよりもひと回りずんぐりと丸く栄養を蓄えられる体に。一方運動能力は低く、ゆっくりと歩き回っている姿が特徴的です。

冬場は車の走行が空港と街を結ぶ道路以外ほとんどが使用不可能になるため、移動手段はスノーモービルが一般的。街を出る際にはシロクマ対策として猟銃の携帯が義務付けられています。
そんなロングイェールビーンを歩くと街のいたるところにスノーモービルが。世界一人口当たりのスノーモービルの数が多いんだとか。
ちなみにそんな住人の足を支えるモービルはYAMAHA製がほとんど。

もちろん伝統的な犬ぞり文化もしっかり保存されており、この地でしか体験できないようなちょっと危険で体力がいるまさに本物の犬ぞり体験をすることができます。
一歩街を離れるとこの絶景。

どのくらい寒いのですか?という質問を持っている方への1枚。
魔法瓶にいれたお湯を振り上げるとその瞬間に凍り白い煙になります。この時の気温は−30度程度になっていました。
4. 夜のロングイェールビーン

この写真はスノーモービルでロングイェールビーンの対岸ヒョルス山 Hiorthfjellet)を訪れた際に撮影したもの。ロングイェールビーンの全貌を見ることができます。
前述の通り、人口1000人を超える街としては世界最北。スヴァールバル諸島では最大の街であはありますが、街の全貌は非常にこじんまり。
ちなみに街の手前にあるのはグリーンランド海がスピッツベルゲン島に入り込んでいる湾(フィヨルド)の部分。冬期は完全に凍結しているため、このように対岸までモービルで渡ることができます。
5. 奇跡のオーロラ大爆発

お待たせしました。ここからはオーロラの写真を紹介していきます。
今回ロングイェールビーン滞在中、見事なまでのオーロラ大爆発に当たりました。現地に居住中のノルウェー人でさえ、こんなのは最近見たことがないというくらいのレベル。

もちろん夜間に街中を出ることは危険が伴い、また銃の携帯なしに街を離れる事は禁止されていることもあり、オーロラツアーに参加しない限り街を離れての観測は不可能。
とはいえ街明かりのあるロングイェールビーン 中心部からでもこのような見事なカラフルなオーロラがはっきりと見えました。

ちなみに一般的にはロングイェールビーンは、オーロラということだけで言えばあまり適した場所とは言われません。
その理由は北緯78度という高すぎる緯度。

オーロラは「オーロラ帯」という楕円上の地域で一般的に見られ、有名なオーロラ観測点としてはカナダのイエローナイフやアイスランド、スウェーデンやノルウェー北部が挙げられます。

一方、スヴァールバル諸島は北すぎる立地から、オーロラ帯を外れてしまうのです。また、立地が特殊なことからオーロラ観測名所としてはなかなか名前が上がりません。
とはいっても、オーロラ観測が全く不可能ということはなく、もちろん現地ツアー会社によるオーロラツアーも行われています。

また大都市というような街が周囲に一切ないため人口的な光(光害)がほとんどなく、オーロラが発生する条件さえ整えば暗さという意味ではむしろ最適。
この写真は街中を歩きながらミラーレス一眼を使って手持ちで撮影したもの。手持ち撮影でさえここまで明るいオーロラが映る、どれだけ強いオーロラが出ていたか想像できるでしょうか。

というわけで、条件さえ揃えばこのようなオーロラ爆発がロングイェールビーンの街中であっても観ることができます。

ちなみにこの時の撮影時の外気温は−28度。ものすごく寒いには違いありませんが、経験的にいうと−10度を超えると寒さの違いを感じられなくなってきます。
もちろん私は分厚いスノーブーツや南極観測隊も使っているというMont-bellのダウン上下などなど相当の装備をしていきました。

それでも、カメラのセッティングをする際など止むを得ず手袋を取ると数十秒で痛みを感じるほどの寒さ。
冬期にロングイェールビーンを訪れる際には入念な準備と装備は必須です。
今回ロングイェールビーンを訪れた際に撮影した写真、動画をもとにタイムラプスムービーを製作したので、どうぞごらんください。
もちろんオーロラの映像も入っています。
6. 最後に
まさに極地、スヴァールバル諸島のスピッツベルゲン島、ロングイェールビーンの簡単な紹介と美しいオーロラ写真を紹介しました。
肉眼でもはっきりと緑、黄色、赤、紫のオーロラが見え、絶えず空でダンスしているような幻想的な光景を数時間にわたって、しかも3日間連続で楽しむことができました。
オーロラはもちろん、ロングイェールビーンの街を取り囲む雄大な大自然は、現地であった人も口を揃えて「地球とは思えない」と言うほどの感動モノです。
現在民間航空会社でロングイェールビーン便を運行しているのは以下の2社。
宿泊施設の数も限られており、シーズンによってはかなり高額になってくるため訪れる際には早めの計画が必須。
是非みなさんも、いつか機会があればしっかりと準備をしてロングイェールビーンでの極地体験をしてみてください。
オーロラ撮影についてのおすすめTIPについては上記記事で取り上げていますので、今回紹介したオーロラ写真に興味を持っていただけた方はどうぞ合わせてご覧ください。

ロングイェールビーンは開発が制限されていることもあって、ホテルの数が需要に比べて非常に少なく、また一般住宅もほとんどないためAirbnbの物件も限られています。
そのため、通年にわたって旅行者の宿泊場所確保が難題。そのため、個人旅行をする際には宿泊場所の予約と航空券の予約を並行して進める必要があります。
航空便はノルウェー首都オスロや北極圏の最大都市トロムソを起点に、スカンジナビア航空やノルウェーエアシャトルなど複数会社が運行しています。
今年10月に10日間程行ってみたいと計画中ですが、なかなか情報が無く…
伺いたいのですが
ここは1カ所滞在なのでしょうか?
だとしたら10日間は長いですか?
コメントありがとうございます。
基本的にロングイェールビーン以外には諸島内に人がまともに住めるような場所はなく(一部ロシア人居住区除く)、また移動手段もありません。
10月の中旬までは完全に暗くなる時間がないのでオーロラの期待もできません(後半は観測可能です)。
基本的にツアーに参加する以外自力での行動は街中の数キロを除いて不可能だと考えて大丈夫ですので、そう考えるとよほど予算がふんだんにあってツアーに連日参加できるというということでもない限りちょっと長いかなぁと思います。
来年2月のフィンランド(サリセルカ)行のオーロラツアーが催行中止になり、いろいろ検索した中でこのサイトを
見つけました。
私は北欧では、ノルウェー(トロムソ、ハシュタ、ロフォーテン諸島など)、アイスランド(レイキャビク)、
スウェーデン(キルナ、アビスコ)、フィンランド(サリセルカ、ルオスト)へ行ったことがあるが、スバール
バル諸島には行っていないので、この記事は参考になりました。
カナダやアラスカの観賞地は真冬になると、-30度以下になったりするので、やはり冬のオーロラは北欧に
限りますね。
もっとも、夏・秋は天候の点から言って、イエローナイフがベストですが。。。
また新しい記事を楽しみにしています。
スバールバル諸島は北すぎるのでオーロラバンドから外れるため理想の立地ではないようですが、その分光害がなかったり気候がかなりドライに安定していたりと観測確率が増える要素も多数あるようです。
是非機会があれば訪れて見てください。