スウェーデンの国のイメージで「平和」という人がたくさんいますが、実際に近代史で見れば長い間戦争をしていない国トップの常連にあがる国です。
では実際にスウェーデンは平和なのでしょうか。スウェーデンの国防や備えについてはほとんど知られることはありませんが、防衛意識という意味では日本よりもはるかに対策が進んでいるように思います。
特に対ロシアでは、潜水艦や戦艦によるスウェーデン領海接近・侵入が相次いでおり、仮想敵国ロシアに対する防衛はパートナーシップを結んでいるNATO全体としての防衛課題であると同時にとスウェーデン軍の切迫した問題でもあります。
一方日本では、避難訓練は危険を煽るだの、軍を持たないことが平和維持に必要だ、だの言われますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
今回はヨーロッパに住んで4年目の筆者がスウェーデンの国防にまつわる日本人が知らない5つの事実を紹介します。
1. 核シェルター保有率
ノルウェーやスイスでは個人の核シェルター保有率がほぼ100%に近いと言われますが、実はスウェーデンも核シェルターの普及率は極めて高くなっており、一般家庭でも核攻撃に耐えられるシェルターを保有していることは特に珍しいことではありません。
現在スウェーデンには6万5千の核シェルターがあると言われており、人口カバー率は約8割。学校やビルなど大型建築物には建築基準法にしたがってシェルターを設置する義務があり、トイレや発電機、浄水装置などの設備の規定がされています。
日本はロシアはもちろん核攻撃をちらつかせる北朝鮮が隣にいるにも関わらず核シェルター議論をすることさえタブーのような風潮。平和を追求するためにも備えるものは備える、その意識の欠如は深刻のように思います。
2. 防災意識と訓練
2018年5月にスウェーデン政府の緊急事態庁から、戦争への備えにまつわる手引きが国内全480万世帯に配布されました。
ページ数は20ページにおよび、避難方法、食料、水の備え、身の守り方・隠し方、緊急時のラジオ周波数など非常事態の際に必ず覚えて置かないことはもちろん、電力ダウンに伴う対応、モールス信号の読み方などかなり踏み込んだものまで書かれています。
また、緊急事態宣言が発令された際の憲法や臨時法の扱い、私有地の徴用などについても書かれています。
特に印象的なのは
「If Sweden is attacked by another country, We will never give up.」
と赤字で書かれている文面。スウェーデンは決してあきらめない、という徹底抗戦を呼びかけており、このパンフレットの中にも広く忍耐と勝利という言葉が使われています。
また、フェイクニュース対策として
「All information to the effect that resistance is to cease is false」
と、投降や降伏を訴える全ての情報は嘘であることも明言されています。
スウェーデンを脅かしている具体的な危機として他国による侵略行為はもちろん、
- サイバーテロ
- スウェーデン政府の決定に影響を与えようとしている外国組織
- テロ攻撃
- 公共交通機関・インフラへの攻撃
など抽象的な表現ではなくはっきりと明文化し、国民に備える意識の大切さを啓蒙しています。
日本では以前J-アラートや避難訓練が危機を煽るという報道がありましたが、なぜ自分たちを守る訓練することが危険を助長するのでしょうか。このような論調は全くもってナンセンスであると言わざるを得ません。
3. 徴兵と戦争
ノルウェー(18歳以上男女)やフィンランド(18歳以上男子のみ)が以前から徴兵制を採用しているのは一部で知られていましたが、2018年に入りスウェーデンも7年ぶりに徴兵制を復活させました。
これは、ロシアによるクリミア併合など具体的な危機が迫っていること、そしてスウェーデン領海侵犯の頻度が高まっていること、2016年にスウェーデンへの核攻撃を想定した軍事演習が行われたことなど世界情勢の変化に対応したためです。
また、驚くことに徴兵制再開に伴って大きな抗議やデモ活動などはほとんど無かったということ。
日本では徴兵制度=戦争という論調があり、それどころか軍を国が持つこと=覇権主義だとメディアや野党は指摘しますが果たしてそうでしょうか。
確かに徴兵制度を経験していない日本でいきなり導入というのはかなりハードルが高い問題だとは思いますが、少なくとも徴兵=戦争と結びつけるのは違うような気がします。
軍を持たない国はほとんどなく、まして日本のような大国が軍を持たないというのは世界的には常識外れであると同時に、国連活動などでも蚊帳の外に置かれる状態。
確かに第2次世界大戦後の情勢では、諸外国にとって日本が軍を持つということに対して抵抗があったのは事実で、GHQによって制定された現日本国憲法にもその影響が強く残っています。
一方、そんなアメリカでさえ現在では日本に軍事的な支援を求める時代になっており、軍は違憲だという今の風潮には半ば呆れてしまうのが本音です。
4. 身近な軍人
スウェーデンはもちろんノルウェーなど北欧諸国を歩いたり鉄道に乗ると、必ずと言っていいほどどこの街にも軍服を着た軍人がいます。
彼らは任務中のものもいれば、移動中や帰省中だったりと様々。
一般市民の反応はというと、見慣れているというのが第1ですが、非常に尊敬した態度で接しています。それは体を張って国を守るために働いている人への敬意の表れ。
そして徴兵制度もあることから、誰もが国防への意識を持っており兵役についている人を社会全体で支えるという文化があるように感じました。
また軍もチャリティ活動や学校訪問などに積極的に参加し、社会との繋がりを増やそうと努力しています。
あまり知られていないところで言えば、ストックホルムの王宮で観光の目玉となっている衛兵交代式に参加している衛兵も皆現役の軍人。ローテーションで担当が回るようですが、中には前日までイラクでの作戦に参加していた、なんていう人もいるようです。
軍人も国民も共通して自分の国を守るという意識を共有していること、そういう高い国防意識は相互の信頼感と身近な関係の表れかもしれません。
5. 武装中立国
スウェーデンは非同盟中立の立場を取っており、NATOなどの軍事同盟にも加盟していません(パートナーシップ協定はあり)。
また日本同様専守防衛の立場を明確に示している国の1つでもあります。
しかし、防衛を他国に依存しない一方、独自兵器開発を積極的に行なっていることでも知られ、陸海空軍共に多くのスウェーデン産兵器を使用中。
欧州の仮想敵国は一貫してロシアであるため、有事の際に1カ国だけで対応することにはならないと思いますが、それでも武装中立だからこそ自国防衛への備えはしっかりとしておくという姿勢、必要十分な兵力を備えておくことが必要なのです。
最後に
いかがでしたか?
今回はスウェーデンの最新の国防事情を紹介しました。
平和は黙っていれば訪れるものではなく、あくまでも「維持」されるものというのが常識。平和憲法があるから、軍を持たないから平和が訪れるなんていうのは全く通用しない概念なのです。
備えあれば憂いなし、とはまさにこのことで、スウェーデンでは各家庭や公共施設の核シェルター配備、訓練の実施や戦時に備える啓蒙活動、そして強力な軍の保有など、専守防衛・武装中立国だからこその準備をしっかりとしています。
近年GDPに占める国防費の低下が問題となり、それに伴い2020年まで軍事費増強を発表。それに関連してかはわかりませんが徴兵制度も復活されました。
世界で最も平和な国の1つと言われるスウェーデンですが、一方でロシアによる領海・領空侵犯や対スウェーデンへの軍事演習などは目を背けることのできない事実。
現在のスウェーデンの国防事情を見て、今一度中国やロシアという強大な武装国を隣国にもつ日本人として考えるようなことがあるように感じます。
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