中欧スロバキアの首都ブラチスラバの旧市街にひっそりと店を構える江戸前鮨松木。
内陸国であるスロバキア、さらに日本人が多くいる大都市ならまだしも、日本人観光客すらさほど多くないブラチスラバにある江戸前鮨のお店ということで気になっていた中、今回機会がありお店を訪れることができました。
世界を相手に本場日本の鮨で勝負する鮨松木を紹介・レビューしていきます。
1. 江戸前鮨松木概要
江戸前鮨松木はブラチスラバ旧市街の中にある居住エリアの地下一階部分にひっそりと佇む店構え。
特にお店の看板などは出しておらず、通りを歩いているだけではまず気づくこともないであろう隠れ家的なお店となっています。
お店は大将兼マネージャーの竹内さんと日本の寿司学校を卒業したスロバキア人ペテル・ホルバーとさんによって運営されている様子。
まだ若い二人でしたが、日本の文化を世界に正しく広めていきたいという志がしっかりとしたお店のように見えました。
2. お品書き
基本的には予約制のおまかせ一本のみ、一人120ユーロ(2022年5月現在)。前菜から始まり、刺身盛り、握り11貫、ケラ焼き&汁物、甘味の基本構成となっています。
今回伺った際の品書きは以下の通り。
前菜
- 鯛・こちの和物 フレンチキャビア乗せ
- ムール貝の炭火焼き
- 鯛の揚げ物
- お造り(中トロ・スズキ)
握り
- イカ
- 鯛の昆布締め
- ニシンの酢漬け
- サーモンの塩麹漬け
- はまちの白醤油洗い
- スペイン産熟成本マグロ
- 帆立
- アナゴの白焼き
- 鯛の炙り
- サーモンたく巻
- 醤油漬けいくらミニ丼
甘味
- 自家製プリン
3. 無理をしない構成で確かな味
実際におまかせをいただいた感想は、食材確保に無理をしすぎない代わりに本場日本の技術で確かな味を出している、ということ。
ムール貝やニシン、サーモンなどヨーロッパでも手に入れやすい食材を使いつつ、日本で受け継がれる下処理や調理法を取り入れている品が多く見られました。
まずは鮮魚の和物から始まる江戸前鮨松木。お酒を飲む人、食事をメインにしたい人どちらにも対応できるバランスの良い突き出しと握りのバランスとなっていました。
お造りはスズキと中トロ。どちらも鮮度が感じられるもので、内陸国にいるとは思えないクオリティ。
日本のカウンター鮨のお店ではあまり見かけることがないような塩麹のサーモン握りやニシンの塩漬けの握りなど、日本の鮨をベースにヨーロッパでのテイストを取り入れているものも数々あり新鮮。
お造りであったトロの握りがなかったのは少し残念に感じたポイント。
握りはスロバキア人のペテルさんと大将竹内さんが共に担当。握り手にかかわらず、柔らかめで空気感が高い握りはこのお店の特徴なのかもしれません。
お酒のセレクションも十分にあり、ヨーロッパではなかなか見かけない日本酒のセレクションが揃っていました。
印象的だった自家製のいくら醤油漬け丼。ぷりぷりとした食感はもちろんのこと、なかなか甘めの漬けだれを使っているようで後を引きます。
しっかりと出汁からとっている味噌汁で締めたあとの甘味は口溶けの柔らかいプリン。
120ユーロで突き出し4品、握り11貫はヨーロッパにあることとクオリティを考えるとなかなかコストパフォーマンスは良いように思いました。
4. 課題と展望
やはり一番の苦労は魚の入手にありそうで、内陸国スロバキアという事情から鮮魚の調達は至難の業を極めている模様でした。
EUの認証制度に日本が追いついておらず、日本から鮮魚を仕入れるのが出来ないと嘆いていたのが印象的。今後改善されない場合には韓国から仕入れざるを得ないとのこと、日本のグローバル化の遅れがこんなところにも出ているようです。
今後はミシュランの星も狙っていきたいとの大将の言葉。ヨーロッパでミシュラン星付きの鮨店に何軒か足を運んだことがある経験からすると、もう少し値段を上げてでもネタの「多様性」と「意外性」があってもいいように思いました。
そういう意味でも今後魚の仕入れ問題の解決がこのお店をどこのレベルまで引き上げるかを占っていそうです。
また、日本人だけではなく地元の人にどこまで受け入れられるか、という意味でパフォーマンスも大事になってきそうな印象。
握りを淡々と出していくのは日本では普通ですが、どういう魚なのか、どういう下処理をしたのか、米へのこだわりや季節の特徴など一品一品提供時にちょっとしたプレゼンテーションをして一種のフードショーの形をとっているミシュラン鮨店がヨーロッパには多いのでそういうのも参考になるかもしれません。
まだ若い大将、是非頑張って確かな日本の味と文化を広めて欲しいと思います。
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