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【ベルファスト】21世紀に残る対立の痕跡「平和の壁」が分断するもの

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世界には数多くの対立があります。民族、宗教、人種、政治信念。対立が表面化しているものもあれば鎮静化しているものまで様々。

ヨーロッパにおいても例外ではなく、20世紀以降だけでみてもベルリンの壁に象徴される東西分断や、ボスニア紛争で見られる民族対立など数多くの犠牲を出した対立がありました。

イギリスを構成する一つの自治体北アイルランドにもヨーロッパを代表する対立が今にまで残っており、そこを訪れる人であれば誰もがイギリスとは思えぬ光景に驚くはず。

今回はそんな北アイルランドの首都ベルファストにある「平和の壁」や壁画をお見せしながら、実際に訪れて感じる今を紹介します。

1. 北アイルランド紛争とは

イギリスを構成する一自治体、北アイルランド。アイルランド島北東部分に位置しており、アイルランド共和国と国境を接しています。

この地域は昔から民族・宗教の対立が長く続くエリアとして知られており、特に19世紀以降は多くの犠牲を出す大規模な紛争・戦争へと発展しました。

ことの発端は19世紀にアイルランド島全土がイギリス領に併合となったこと。イギリスはキリスト教プロテスタント派の国である一方、アイルランド島にはカトリック教徒が多く住んでいたことが問題を複雑にしました。

この併合以降、イギリスと連合を維持するべきとするユニオニスト(主にプロテスタント教徒)とイギリスからの独立を主張するナショナリスト(主にカトリック教徒)による対立が表面化することになります。

イギリス軍にとアイルランドの独立を目指すナショナリストによる大規模な衝突やテロ活動などが頻発化、1916年にはアイルランド独立のため「イースター蜂起」が発生しその後アイルランド独立戦争が本格化していきました。

その後、1937年にカトリック教徒が大多数を占めるアイルランド共和国が独立。しかし、その際アイルランド北部6州はイギリス連合国側に残るという独自の決定をし、結果としてアイルランド島内が分断されることとなりました。

北部6州に残されたナショナリスト達はアイルランド側へ編入を求めゲリラ活動を本格化。一方ユニオニストはイギリスの統治下になることを求めます。

結果として1960年代からテロ事件が頻繁に発生するようになり、1998年の和平交渉締結、通称ベルファスト合意(アイルランド共和国が正式に北部6州の領有権を放棄)まで多くの血が流れました。

この北アイルランド紛争の際に築かれたのが「平和の壁」。平和の壁といっても実質はユニオニストとナショナリストの居住区を分断する壁、今もこの壁が首都ベルファストには多く残されています。

またこの対立は今まで続いていると考えている人も多く、実際21世紀に入っても単発的なテロ事件が発生。さらにイギリスのEU離脱問題によってこの問題がまた大きくなるという懸念が強く持たれています。

2. 平和の壁は本当に平和なのか

北アイルランドには今も数多くの「平和の壁」が残っています。

もともと平和の壁として作られたのち、高速道路の壁として転用されたようなものもある一方、地域を分断するための壁としての機能を今ももっている壁も数多くあるのが事実。

最も有名な平和の壁はベルファスト市街地中心部、Cupar Way沿いにあるもの。高さ10メートルにも及ぶような金属製のフェンスがそびえ立っています。このフェンスの手前側がユニオニストの多く住む居住区、反対側がナショナリストの住むエリアです。

この壁がない頃は手製の手榴弾などが投げ込まれたりというテロ行為が絶えなかったといいます。

大きなものでなくても高さ数メートルの壁はベルファスト各地で見られます。壁を隔てて2つの異なる宗教・思想を持つ人が住むという現実は今も続いています。

この壁は街中はもちろんのこと、自然公園の中にまで設置されているという事実からも問題の根深さを感じます。

さらに、場所によってはゲートが設置されており、毎日決まった時間になると住民間の移動ができないように閉鎖される場所もあります。

現在は対立は表面的にはなっておらず、この壁もだんだんと「シンボル化」してきている一方で、「ユニオニスト」「ナショナリスト」という住民の中での意識は依然として強く、統合は進んでいるようにはあまり感じられません。

特に若い人の中では無宗教という人も多くなっているにもかかわらず、過激化しているという調査も出ています。

3.  ベルファストの壁画

ベルファスト市街地中心部を少し外れて歩くと、街中に描かれた壁画で自分がどちら側の居住区にいるのか容易に感じることができます。

ベルファスト市街東部は主にユニオニストが多く、ユニオンジャックを含むイギリス構成地域の国旗を数多くみかけます。

また、イギリス軍とともにアイルランド紛争や北アイルランド紛争を戦った義勇兵のモニュメント、ユニオニストの政党の紋章などを様々なところでみることができます。

一方で、ナショナリスト側のエリアに入ると光景は一転。公式にはイギリスとはいえ、アイルランド共和国にいるかのようなアイルランド国旗がいたるところに掲げられています。

アイルランド共和国独立のために活動したアイルランド共和軍(IRA)、その後北アイルランド紛争においても分派が大きな影響力を行使します。

このIRA分派の活動は数多くの暴力的なゲリラ活動が伴ったため、ユニオニスト側からはテロリストとして指定されている一方、ナショナリスト側からすると命を惜しまず抵抗をした人として英雄視されています。

そんなナショナリスト側のエリアでは、ユニオニストに対峙し命を落とした人を称える壁画やモニュメントが多数みられます。

4. 地元の人は今何を思う

今回訪れたのはちょうどイギリスのEU離脱直前という時期。

イギリスの離脱交渉に関して、非常に多くの時間が費やされたのがアイルランドとの国境問題でした。

今までアイルランド共和国と北アイルランド間の移動に制限はなく、人の移動・物流ともに自由でした。

ですがイギリスがEUを離脱すると、EU加盟国であるアイルランド共和国との間に再度国境や税関が復活することになってしまう、これが非常にセンシティブな問題だったのです。

今回は幸運にも現地の人複数人に話を聞くことができました。

皆口を揃えていうのは「昔ほどは悪くない」ということ。逆を言うと誰一人として、安定しているとは言わないのです。

ちなみにベルファストは現在のイギリスの中では治安は非常に安定していることで知られています。なので物理的な対立というよりは精神的な対立というのが未だにあるのかもしれません。

事実、今でもナショナリストがユニオニスト側のパブにいくと店を追い出されたり、学校でいじめがあったりというのは残念ながらも起こっているのだとか。

また、紛争を知らない若い世代の中で過激思想がだんだんと広まってきているという情報もあるのだそう。

イギリス政府は基本的にベルファスト合意を今後も維持すること、北アイルランドの帰属は現地の住人に将来を委ねていることを公式に宣言していますが、まだまだこの問題が完全に解決されるまでには時間がかかりそうです。

5.  最後に

ベルファストの街を少し歩くだけでも様々なモニュメントや壁画、平和の壁を見ることができ、地元の人はこれらとともに常日頃を過ごしていると考えるととても複雑な心境になります。

特に小さな子供達は紛争そのものは知らないものの、これら周囲の環境から受ける影響は決して少なくはないはず。

北アイルランドの問題が少しずつでも平和的に好転することをただただ祈らざるを得ません。

アイルランド共和国の首都ダブリンからベルファストは日帰りでの観光が可能。平和の壁を巡りながら北アイルランド紛争を学べるガイドツアーなども催行されているので、是非自分の目で見てみて考える機会を作ってみてはいかがでしょうか。

 

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ノルウェー、スウェーデン、イギリスに留学・長期滞在。都合がつく限りヨーロッパ各地を渡り歩き、決して観光ガイドだけではわからない現地の情報を収集。そんな情報を元に、ヨーロッパの生の観光情報と留学に必要なIELTS対策を紹介中。